猫と栄養素について

猫の身体のしくみ

猫に対する栄養に関しまして、『マックス』の断面図と共にご案内していきたいと思います。
猫体図
これからご案内する内容はドミニク・グランジャン教授によるもので、ロイヤルカナン社の発行資料に基づき、私の方で書き変えておりますので、予めご留意くださいませ。さて、栄養素のご説明の前に、いくつかご紹介しておかなければならないことがございます。


・ 味蕾が少ないので、猫には味覚があまりありません。
・ 猫の歯は30本です(ちなみに犬は42本)。
・ 猫の歯は全て尖っており、咬み切る機能はありますが、咀嚼には適していません。
・ 人間と違って唾液中に消化酵素はありません。
・ 胃の拡張性は高く、食物を飲み込むことに適しています。
・ 胃の酸度は人間より高く、骨を消化したり有害な細菌を破壊する力があります。
・ 小腸は短く、炭水化物の消化には適していません。
・ 腸内細菌叢は雑食性の人間に比べて非常に少ないです。


では、栄養素別の対策と 原材料についてご紹介していきたいと思います。あくまで必要な栄養素というわけではなく、栄養素がどう猫に機能するかということですのでお間違えないようお願いします。また猫に関連しそうな栄養素を抜粋してい紹介しています。

 

猫の栄養素

デンプン

猫が消化するためにはデンプンは充分に調理されていなければなりません。調理が不十分な場合、大腸内で発酵して酸臭を伴う下痢の原因になることがあります。過剰に摂取するのは控えてあげましょう。デンプンは米やパン、トウモロコシ、小麦やイモ等に含まれる貯蔵物質ですね。

繊維質

肥満や糖尿病、便秘、下痢のような疾病には、適正な量・品質における調理されていない細胞成分を食事に加えることで、より効果的に治療・予防を行うことができることが近年判明されています。純セルロースやリグニンといった非消化性及び不溶性繊維は腸管の収縮作用を促し、腸管の機械的作用の促進に役立ちます。ペクチンやフラクトオリゴ糖等の水溶性繊維は消化管の健康と正常な状態の維持にも重要な役割を持っています。ニンジンやサヤインゲン等に含まれています。

FOS(フラクトオリゴ糖)

特に大腸における腸細胞の健全な発達に必要な栄養素を提供する一方で、腸内における有害な細菌の増殖による下痢の予防に効果的です。しかし、過剰摂取は軟便の原因にもなりますので、ご注意ください。FOSは大豆の外皮の部分やオオバコ(シリアル、ノギの部分)、チコリーのような植物に含まれます。 純粋な形への加工によって、有効にはたらきます。

炭水化物

猫はアミノ酸から血糖を合成するので、食事中に炭水化物がなくても生きていくことができます。炭水化物は身体の機能を強くする働きがありますので、エネルギー供給から消化管のサポートまで様々な機能を持っています。

糖質

糖質は肉食動物にとって、予防もしくは治療といった臨床栄養学的な働きはありません。食事中に糖質が過剰に含まれている場合、下痢や肥満、糖尿病を引き起こす恐れがあります。

脂肪酸

飽和脂肪酸はエネルギー源としての役割を持ち、他の役割を持たないため「空のカロリー」と呼ばれています。食事中の多価不飽和脂肪酸が酸素や熱によって分解された場合、複合化合物(ヒドロペルオキシド)を生成し、結果的に食事の酸敗に繋がり、身体にとって有害で危険を及ぼす恐れがあります。

オメガ3系脂肪酸

生物学的な作用から、オメガ3系脂肪酸は活動的や高齢の猫、さらに慢性炎症性疾患(関節、慢性腎不全、炎症性下痢、皮膚疾患)を患う動物にとって大切な栄養源になっています。ほとんどのオメガ3系脂肪酸は海洋系(魚油)に由来しますが、大豆油に含まれているものもあります。

オメガ6系脂肪酸

基本的な必要量に対してのオメガ6系脂肪酸の供給とは別に、ルリチシャ油等を用いて猫の体内におけるγ-リノレン酸の供給は、高齢の猫において有効で、脂肪酸の代謝作用に影響する糖尿病や肝臓、もしくは甲状腺の疾患の治療には不可欠です。オメガ6系脂肪酸は植物油など植物に限定して存在します。優れた供給源として、γ-リノレン酸を高濃度に含むルリチシャという小さな藤色の花から取れる油があります。高齢の猫では、リノレン酸をγ-リノレン酸に変えるために必要な酵素が不足している、もしくは消失していることがあります。

脂質

脂肪は猫にとって主要なエネルギー源です。猫は体内で脂肪を酸化して体内で必要とされるエネルギーを取りだします。1gの脂質は約9kcalに相当します。これは1gの炭水化物もしくはタンパク質の約2.5倍の熱量にあたります。また脂肪酸の中には必須脂肪酸と呼ばれるものがあり、これは細胞膜の成分として、あるいは一部のホルモンにとって不可欠な前駆物質として重要です。食事中の脂質の供給源は、主に動物性脂肪もしくは植物性脂肪を豊富に含む楚辺手の食物です。

アミノ酸

タンパク質の中には非常に複雑で化学的に安定しているものがあり、それらは消化作用によって分解したり腸内で吸収したりすることができません。従って、猫にとって食事としてのもしくは栄養的な価値はありません。このようなタンパク質には羽毛や被毛等があります。食物中のタンパク質によって摂取されるアミノ酸は、体内で合成される全てのタンパク質の基本的要素となり、体内における重要な作用や生理的機能に影響します。

必須アミノ酸

食事中の必須アミノ酸が欠如した場合、生命の維持に必要なタンパク質の合成を阻止するまでには至らないにしても、特定のアミノ酸を含まない異常タンパクの合成を引き起こし、結果的には生体機能を低下させ、危険性をもたらす恐れがあります。必須アミノ酸が欠落した場合、体内における正常なタンパク質の合成が非常に難しくなります。供給される原材料としては、カゼイン、卵、肉及び魚タンパク、分離大豆といった食物は消化性が良く、必須アミノ酸の含有量も高く生物学的価値の高いタンパク質の供給源です。

カルニチン

生物学的には、カルニチンは脂肪を細胞の活動に必要なエネルギー源に変える働きをします。カルチニンは必須成分であり、非常に活発な動物、特に長時間の活動を伴う動物にとって効果的に働く栄養素です。肥満の動物の減量の過程で脂肪組織か血中へ脂肪が遊離している時、カルニチンを効果的に食事へ補強することにより、血中に遊離した脂肪が肝臓に蓄積することを防ぐことが期待できます。供給される原材料として、カルニチンの体内での合成は肝臓で行われますが、食物からカルニチンを摂ることもできます。カルニチンは植物内にはわずかな量しか含まれていませんが、肉類(特にマトンやラム肉)には大量のカルニチンが含まれています。

カゼイン

カゼインは体の成長や被毛の光沢、筋緊張や免疫システムなどに必要なアミノ酸を供給する働きがあります。消化器系などにデリケートな体質を持つ動物や子猫、疾病からの回復期にある動物に対して大量にカゼインを与えると、大きな効果を得ることが出来ます。さらにカゼインは肥満を抑制したり、骨と歯の基質強化を促進する働きにも関係しています。供給源は牛乳です。

コラーゲン

調理されたコラーゲンは重要なタンパク源ですが、必須アミノ酸を全て供給するには他のタンパク質と一緒に摂取する必要があります。コラーゲンはヒドロキシプロリン(体内で合成することができるアミノ酸)を多く含んでいて、肉球の発達・維持などに非常に効果的に働きます。

タンパク質

猫は完全な肉食動物です。特に特定の生理的条件(成長・妊娠・授乳・あるいは再生力が必要な身体活動期)において、大量に高品質のタンパク質を摂取することが必要になります。タンパク質を多く含む食物として、動物性のものでは肉、魚、卵、乳製品など、植物性のものでは豆類などがあります。

タウリン

タウリンは鬱血性心筋症など、深刻な心疾患の予防や治療に使用されることがあります。猫にとっては、タウリンは必須アミノ酸です。タウリンは優れた抗酸化機能を持ち、フリーラジカルの抑制に効果的にはたらくことによって、老化の抑制に対しても役立ちます。タウリンの主な供給源は肉です。

カルシウム

カルシウムの必要摂取量は猫の身体の大きさや生理的状態によって違い、適切に必要量を摂取することで欠乏や過剰摂取によって生じる疾患を予防することができます。成長期や授乳期間の間は通常より多くカルシウムを摂取することが必要です。

鉄は貧血の予防と治療に必須の栄養素です。微量ミネラルで遷移元素であり、身体にとってなくてはならないものですが、必要な量はごくわずかです。

マグネシウム

マグネシウムが不足すると神経障害の原因となりますが、ある特定の疾患の予防を考慮して食事中のマグネシウム含有量を制限する場合もあります。猫における一部の尿結石症(ストルバイト結石症)では、膀胱内でマグネシウムの再結晶が起こり、その結晶に他の成分が沈着、結石を生成することにより尿道閉塞が引き起こされる恐れがあります。

マンガン

マンガンは骨や軟骨の強度に関係するため、高齢期や関節症を患っている場合や子猫にも適切な量を与える必要があり、穀物や種子、無機塩類等に多く含まれています。

リン

猫の個々の状況に適したカルシウムとバランスが取れたリンの摂取により、調和の取れた成長を促進して身体の機能を高めることができます。しかし、高齢の動物に対しては、慢性腎不全を悪化させる恐れがあるため、リンの摂取量を低減する必要があります。リンは、リン酸塩などの無機質の中だけでなく、無機塩類の形態で、哺乳類の骨の中にも含まれています。

硫黄

硫黄は含硫アミノ酸の成分として動物の被毛を形成し、光沢を増すタンパク質であるケラチンの合成に重要な働きをします。硫黄は無機塩類の形態で存在しますが、本質的に動物の体内では、含硫性のタンパクとして存在しています。

亜鉛

体内での全体的な効果に加えて、亜鉛はコラーゲンやケラチンを合成するためになくてはならない成分です。亜鉛は治療や傷跡の再生にも関わり、被毛の美しさにも役立ちます。亜鉛は無機塩類の形態で存在しますが、穀物全般や動物由来のあらゆる原材料中にも含まれています。

ビオチン(ビタミンB8)

ビオチンは光沢のある被毛や健康的な皮膚の維持に関係するビタミンの一つです。さらにビオチンは、神経系の機能にも直接的に関わっています。ビオチンは水溶性のビタミンであり、酵母や肝臓、腎臓、調理した卵に大量に含まれています。

葉酸(ビタミンB9)

葉酸は貧血や神経疾患の予防に関係します。葉酸は高齢の動物や消化器系の疾患(下痢)のある猫、貧血の動物で特に大量に与える必要があります。葉酸は、遺伝物質であるDNAを形成している分子を合成するとともに、タンパク質代謝のあらゆる面において密接にかかわっています。ビタミンB複合体のほとんどのビタミンと同様、葉酸の食事における最適な供給源は酵母です。その他、青野菜(ホウレンソウ、アブラナ科の野菜、レタス)や肝臓にも大量に含まれています。

ナイアシン(ビタミンPP、ニコチンアミド、ニコチン酸)

ナイアシンは皮膚や消化器系、さらには神経系の合併症状を伴う重大な疾患であるペラグラ(黒舌病)や血液疾患の予防に関係します。猫において、ナイアシンは皮膚の健康や光沢のある被毛づくりに役立ちます。ナイアシンはたいていの食物に含まれていますが、特に肉、魚、穀類、マッシュルームには大量に含まれています。

リボフラビン(ビタミンB2)

リボフラビンは犬と猫の皮膚や被毛の質に関係しています。食事におけるリボフラビンの欠乏は、皮膚や眼の問題を引き起こす恐れがあります。リボフラビンは広く自然界に存在しており、酵母、肝臓、チーズ、卵、あらゆる牛乳の副産物に含まれています。

チアミン(ビタミンB1)

チアミンの欠乏は猫の脚気(疲労、筋力低下、歩行および視力障害などを主訴とする疾患)の原因となります。栄養バランスの取れた食事は脚気を予防します。さらにチアミンは、神経変性疾患や特定の心疾患の予防と治療に重要に関係します。チアミンは酵母、小麦麦芽に豊富に含まれています。さらに肉、ふすま、穀類にも含まれています。

ビタミンA

ビタミンAは暗所での調節をする視覚や、皮膚および被毛における細胞の再生、生殖器における一部のホルモンの合成、タンパク質の合成を作用します。肝臓、肉、卵、乳製品等から得られるレチノールや果物及び野菜から得られるβ-カロチンに含まれています。

ビタミンD

クル病や骨軟化症などはビタミンDの欠乏が原因となって起こります。ビタミンDの過剰摂取もまた異常な石灰沈着の原因となるので、猫にとって非常に危険です。ビタミンDは肉や野菜にはほとんど含まれていません。主な供給源は魚の肝油、脂肪に富む魚(イワシ、マグロ)、卵黄、牛乳及びその副産物となります。

β-カロチン(プロビタミンA)

他の抗酸化物質と同様、β-カロチンは体内における様々な酸化ストレス(感染やガン、眼及び疾患)に対する抑制に役立ちます。β-カロチンは主に果物や野菜に含まれており、メロンやアンズ、ニンジン、マンゴー等に特に多いです。

 

だいたい以上になります。他にもビタミンEとかコンドロイチンとか様々ありますが、特筆すべきところもなかったので割愛しています。ポイントとして猫は肉食なので肉類で大体補えるのですが、被毛や皮膚等の健康状態を補うのに、意外とミネラルやビタミン類も重要ということです。もちろんあげすぎは良くないですが…。上記一覧の中でも後半部分が意外だと思います。特にビタミンは重要なイメージがありますし、果物に多く含まれているようですが果物は糖質もあるので、やはりニンジンや青野菜等を適度にあげるのは良さそうです。

現場の飼い主としては、原料ありきで栄養素とその作用をご紹介した方が分かりやすいと思いますが、それを書き始めると途方もないボリュームになりそうですのでこちらでご容赦ください。でも、意外と勉強になりますよ。

勉強